クリストファー・ノーラン監督の映画は、混乱しやすい。
過去に「インセプション」「ダンケルク」「テネット」を見たが、どれもこれも話の流れ、時間の順序が複雑だ(特にテネット)。
今回も一人の男の人生という1本の時間を、エピソードごとに区切って、それを同時進行させるように作られている。
映画は、カラーのシーンと、白黒のシーンがある。
オッペンハイマーが出てくるシーンはカラー画像で、出てこないところは白黒映像になっていると感じた。
オッペンハイマーの立場での表現なのだろう。そう考えて観ると多少わかりやすくなるかもしれない。
私は、一応技術者なので、マンハッタン計画のことを本やTVを通して多少知っていた。
また技術者なので、理論上はできるとわかっていても実際に作るとなると別であることも知っている。
前例がない、誰も作っていない、誰も成功させていないものを成功させるには、未知の困難の連続だ。
「何が何でも、敵よりも先に原子爆弾を完成させる。」と、いうことで、複数の方式が同時進行で行われる。
そのせいもあり、参加している人数も投入される予算も桁違いだ。
分裂もせずにみんなまとまって、最後には完成させたのだから、「アメリカってすごいな」と考えていた。
映画をみると、実際には色々あったことがわかる。
当初、日本での公開の予定はなかったらしい。
分断が深まる昨今。この映画が、分断を深くすると考えていたのかもしれない。
多くの日本人はロバート・オッペンハイマーを恨んでいない。
その名前すら知らない人のほうが多いだろう。
現代の日本人の多く、広島や長崎に原子爆弾が落とされた事を知っている日本人の多くが、オッペンハイマーもトルーマン大統領もアメリカも恨んではいないと思う。
無差別に市民を殺すことに嫌悪感を持っているだけだ。
だから、核兵器を嫌い、大量破壊兵器を嫌い、戦争を嫌う。
最近は災害が増えた。戦争なんかしなくても、地震、火山、津波、洪水などで、無差別に人の命が奪われる。
殺し合いなんていらない。
映画では、原爆完成後の人生も描かれる。
何万もの命を奪う装置を作ったことで、罪悪感に苛まれる。
そのため、さらに1000倍の破壊力をもつ水素爆弾の開発には反対する。
その姿勢に対し、水素爆弾を作りたいグループからの誹謗中傷、「赤狩り」にかこつけての攻撃、大量破壊兵器(原爆)を作ったことに対する市民から厳しい意見が突き付けられる。
それらを不本意ながらも受け入れると、奥さんから「戦いなさい!」と怒られる。
原爆の父に安らぎはなさそうだ。
映像表現もカラーや白黒、強い閃光があり、長い映画だが飽きなかった。
出演者も、実際の人に似せていた。
マット・デイモンが出演しているが、特殊メイクによる老け感がすごくて、一瞬わからなかった。
見た後で気分爽快とはならないものの、すごく重い気分になるわけでもなかった。
演出の賜物だろう。
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